第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
『…そういえば。貴方もついでに診てもらえば良かったですね。虫歯がないかどうか』
「なんだ急に。心配すんな。俺には虫歯はねぇよ」
『そうでしょうか?だってほら、よく聞くでしょ?虫歯は “ 感染る ” って』
「べつに一緒にいるだけじゃ簡単に感染らねぇだろ。感染るとすりゃ唾液感染じゃねぇか?それこそ キ……」
それこそキスでもしねぇと。
そう言いかけた俺の言葉は不自然に途切れる。とある事象に、思い至ったからだ。
夢だと思っていた、春人とのキス。
まさか、とは思うが。あれは夢ではなかったのか?まさか、そんなはずない。いやしかし、春人の意味深な言葉と表情は、そうは言ってない。
「は、は…。なぁ春人、夢 だよな、あれは」
『さぁ?何の事です?私には、貴方が何を言っているのかさっぱり』
「じゃあなんだ!その含み笑いは!」
自分からは言えない!
俺とお前がキスをしたのは、まさか現実でのことだったのか?なんて!
物凄く気になるが、俺には真実は分からない。
ひとつ分かるのは、俺はこいつには勝てないということ。いつもそうだ。こちらがどれほど有効なカードを切ったって、春人はさらに強力なカードを手札に隠し持っているのだ。
常にこいつの、手の平の上にいるような感覚。でも…それが存外 不快だと思わない俺は、一体何なんだろうか。