第47章 《閑話》とあるアイドルの休日
「おい。なぁ、春人?アルバムツアー、まじで最高だったよなぁ」
『最高 でした、ね』
「だよなぁ。あっはは!やっぱTRIGGERは最高、だよ」
『はいはい。最高、最高』
「あー、喜んでくれたファンの笑顔も、ツアーの打ち上げも最高で」
『貴方が自分の足で歩いてくれたらもっと最高なんですけど!?』重いんですよずっと!
酩酊状態の楽を、引きずるようにして歩いていた。ようやく辿り着いた彼のマンション。やっと乗り込んだエレベーター。彼の腕を自分の肩に回した私は、息を落ち着けながら叫んだ。
「ん、…あー。まだ 飲める」
『はぁはぁ…。飲むなら、次は水にして下さい』
目的の階に到着したと告げる、電子音声。私は気合を入れ直し、壁に預けていた楽を再び引きずり始める。
無駄に長い廊下にイライラしながら、彼の部屋を目指した。
『いくら次の日が、オフだとしても、飲み過ぎだっ、くぅ、重い!』
「……ねむ」
さっきまで高笑いしていた楽は、私に体重を預け切って目を閉じ始める。そんな中、ようやく部屋の前に到着した。
『ほら、着きましたよ!鍵、鍵出して』
「なんだ、春人、お前…まだ牡蠣食いたいのか?分かったよ、今度また、腹一杯 食わせて…やる」
『この人はもう駄目だ!』
私はドアの前に、楽をべしゃりと下ろす。ほんの少しだけ顔を歪めたものの、彼はすぐに安らかな顔付きになった。
未だかつてないくらい、ぐでんぐでんの楽。そんな彼の前にしゃがみ込み、私はポケットというポケット全部を弄る。
もし、どのポケットからも鍵が出て来なければどうしよう。そんな事態を想像してドキドキしたが、普通にズボンの左ポケットから それは出て来た。
『あー良かった。
ほら楽、あぁもう そんなところで寝たら風邪引きますよ!早く部屋に入って下さい』