第46章 貴方達となら、また
『マスター!ブラッディメアリーを下さいな』
「数時間後にライブを控えた貴女にお出しできるのは、せいぜいこれくらいです」
そう言ってマスターが私の前に置いたのは、ブラッディメアリーのウォッカ抜きの飲み物。つまりは、ただのトマトジュースだ。
『分かってます。冗談ですよ』
「それを聞いて安心致しました。まぁ、勝負前の一杯として、ブラッディメアリーは当を得た一杯だとは思いますが」
出されたトマトジュースを一気に飲み干した後、Longhi'sの地下ステージへと続く階段を降りる。
何処を見渡しても 人っ子一人いない、がらんどうな空間。
入り口からダッシュして客席を突っ切り、そしてステージの上へ飛び乗った。くるりと身を翻し、まだ誰もいない客席を見下ろした。
そして、想像する。
『…あと数時間後。ここでは一体、どんな人達が私を見上げるんだろう!』
私の胸の中には、希望しか詰まっていなかった。
そんな時、ポケットで携帯電話が震える。発信者の名前を見て、すぐさま通話ボタンを押した。
『もしもし?先輩っ!』
《もしもーし。エリちゃん?いま大丈夫?》
声の主は、ロサンゼルスにて絶賛活躍中の プロダンサーMAKAである。
『お忙しいでしょうに、わざわざ電話くれたんですね。ありがとうございます』
《なに水臭い事言ってんのよ!っていうか、ごめんねぇ。本当なら、この目で見たかったのに。エリちゃんがLioとして華々しくデビューする瞬間を》
『そのお気持ちだけで、私は嬉しいです。先輩は、私のダンスの師匠ですから』
《ふふ!あ、そうだ!私は仕事の都合で行けないけど、代わりの人間を寄越すからね!》
『代わりの人?』
《そうそう。それが誰なのかは、まだ内緒っ。でも私、貴女達はきっと仲良くやれると思うのよね》
そう楽しそうに話す彼女と、その後少しだけ会話をして通話を終了した。