第45章 私のところに、帰って来て欲しい
どんな内容の会話がなされているのか、ここからでは聞き取れない。でも私には、このままの距離を保ちつつ、後ろをついて行く事しか出来なかった。
様子を見ていると、エリと天が後列に下がる。そして2人きりで話を始めた。
『それで。ミクとどんな話をしていたんです?』
「後で詳しく話す。それよりキミは本当に、彼女と話さなくて良かったの?後悔は、しない?」
『後悔するかしないかは、今は分かりません。後悔は、後になってするものですから。
でも…きっとミクはもう、大丈夫なのでしょう』
「え?」
『MCに突然 話を振られ、どう返せば良いか分からない危機的状況。でも彼女は、微笑んだ。
あそこで笑えるなら、大丈夫。
きっと彼女は、私がいなくても 大丈夫なんでしょう。それはそれで、少し寂しいですがね』
「プロデューサー」
『はい?』
「キミの事は、ボクが大切にするよ」
『……もう少し、分かりやすく説明してもらえます?』
「言葉のまま。言っておくけど、他意なんて探しても どこにもないよ。
ただ彼女と、約束 したんだ」
『ははっ。もう本当に、意味が分からない!』
私の足は、ピタリと動きを止めてしまった。
エリの横顔が、あまりに幸せそうで。その笑顔が、当時のままで。
今までの思い出が、私の中から溢れ出してしまいそう。
「おい。2人で何をこそこそ話してるんだ」
「何か、春人くんの爽やかな笑い声が聞こえた気がしたんだけど!」
『ふふ。私はいつだって、爽やかイケメンですよ』
「あーぁ。ついに自分で言っちゃったね」
“ 私のところに、帰って来て欲しい ”
彼女が消えてから2年間弱。その言葉を伝えるんだって、ずっと考えていた。
今日の彼女に会うまでは。
彼女は、自分の居場所を見つけたのだろう。
それは、私ではなくTRIGGERの隣だった。
寂しいけれど、嬉しくも思う。
良かった。彼女が今、1人じゃなくて良かった。
大切な仲間の隣で、笑っていて良かった。
私は、エリの あの幸せそうな横顔をしっかりと瞳に焼き付ける。
それから 4人に背を向け、彼女達とは反対方向に歩き始めた。
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