第6章 屈折プロポーズ
『理想の王子様なんているわけねーだろ?ちょっと考えれば分かる事じゃん』
『それじゃあ、私は誰と結婚すれば幸せになれるの……?』
『そんなの――』
「――お、来るぞ!」
「皆、静かに!!」
それまでお菓子をバリバリ食べていた手を止め、全員が画面に食い入った。
部屋の隅では、エースが両耳を塞いで、耐え切れず食いしばった歯と歯の間から不協和音を出している。
『一緒に泣いたり笑ったり出来るやつ。んでもって、どんなに辛い時でも一緒に頑張れるやつ。……そういう相手のことだっての!』
一瞬の静寂があった、次の瞬間――爆発的な笑いの渦がオンボロ寮に響き渡った。
「あーっはっはっは!エース、格好良いな、お前!!」
「これは傑作だ、はっはっはっは!!」
「一緒に泣いたり笑ったり出来るやつ、それに、どんなに辛い時でも一緒に頑張れるやつ……」
「デュ、デュース!物真似は無しなんだゾ!!」
「オルトクン、今のところもう1回、もう1回お願いして良い?」
「お前ら!!マジで憶えてろよ!!」
その後、10回近くエースの告白シーンを繰り返し観ては爆笑していると、流石に耐性と笑いすぎによる疲れが襲ってきた。それでなくとも徹夜で大食堂の撤去作業していたのだ。
一先ず休憩を入れ、その後、今度は先輩達が軒並み姫様にビンタされるシーンを観ようということになった。
「あー、笑った笑った。もう一週間分くらい笑ったんだゾ」
「僕もだ、こんなに笑ったのは久々だ」
「あれ?エースはどこに行ったんだ?」
気がつけばそれまで部屋の隅で壁の方を向いて、苦痛に耐えていたはずのエースが忽然と姿を消していた。
取り合えずオンボロ寮内を探したが、どこにもエースの姿はなかった。
ちょっとからかい過ぎただろうか……。
それぞれの胸に罪悪感が芽生え、とにかく手分けしてエースの居そうなところを探すことになった。