第2章 センラ
「延長!はよ延長して!」
「大丈夫です。5分までなら誤差ってことで、いけます」
「いや、着替える時間とか諸々あるよ?」
「それなら…」
会話をしつつショーツ、パンツを履き終えた私は職場用のジャケットを上半身素っ裸のまま羽織る。
「変態やんそれ。完全に痴女やん」
戸惑いと呆れを含んだ彼の声を聞きながら、荷物を背負い込んで「お世話になりました」と頭を下げた。
「もう行けます。間に合います。では、失礼します」
センラさんの返答を待たずに、私は急いで玄関を後にした。これでお高い延長料金をださせる心配はなくなった。
駐車場へとたどり着いた私が後部座席に乗り込もうとドアハンドルに手をかける。
「待ってぇーー!まだ行かんといてぇーー!」
なんか、デジャヴだ。行きもこんな光景があったような、なかったような、やっぱりあったような。
振り向いた私の目に飛び込んできたのは、トラックパンツにコートを着込んだ彼。前を一応閉めてはいるが、大きく開かれた胸元が中に何も着ていないことを物語っていた。
「センラさん…露出きょ」
「香澄にだけは言われたないわ」
速攻でツッコミをお見舞いした彼だが、その姿は大量にかいた汗でしっとりと濡れた髪に喘ぎに近い息切れ。
淫乱さを大っぴらに醸し出したその乱れっぷりに、なんだかこちらがいけない事をしてしまった気分になって思わず視線をそらす。
「そうだコレ。渡そうおもて書いといたんよ。持ってって」
そう言って差し出された一枚のメモ用紙。中を開くと次の希望日と彼のものであろう連絡先が記入されていた。
メッセージをやり取りする事で有名なアプリ。そちらのIDが書かれている。
「了解しました。日程を確認したのち、連絡しますね」
最後に自分も連絡先が書かれた名刺を渡してその日は別れた。