第1章 あほの坂田(となりの坂田)
「やわらか!!これぞ男のロマンやなぁ〜」
「ぶふっ!!」
先ほどと打って変わっておっさんのような反応に思わず下品に吹き出してしまった。
手で口もとを覆い隠せば、一回り大きな手がやんわりと重なった。そのまま手首を掴まれて、胸元へとおろされる。あらわになった自身の顔に彼の顔面がグイッと勢いよく近づく。
顔だけみれば女性のようにかわいくて、少年のように幼いイメージをもつが、こうして近くで見ると手のひらは自分よりも大きくゴツゴツしているし一つ一つの仕草が豪快で雄々しい。そのアンバランスさが彼の魅力の一つなのかもしれない。
透明感のある曇りのない瞳がどんどん自分へと押し迫る。蛇に睨まれたカエルのように、私はそこから一ミリも動くことが出来なかった。
淡いピンク色の少しだけ厚手の下唇。柔らかそうなそれが自分の唇に押し当てられる。意想外に熱い彼の体温に、驚いた体がビクリと小さく反応した。
咄嗟に体がのけ反り坂田さんから距離をとろうとした私の頭部を彼の掌が荒々しく押さえ込む。身動きの叶わなくなった顔面。それをいいことに、一度離れた唇が再び重なる。先ほどのようにやんわりとふれる程度ではなく、今度はしっかりと押し当てられたそこから唇よりも更に熱いものが私の唇をなぞった。
ぬるりとした感触のそれが彼の舌だと認識した時にはもう私の口の中へと侵入を果たしていた。
大きく体を震わせ、思わず彼のシャツを両手で掴む。侵入してきたそれを押し出そうとすればするりとかわされ、味わうようにゆっくりと互いの舌同士が絡み合った。
「んぅっ!?」
はじめて体感する快楽だった。刺激を受けているのは口の中だけだというのに、まるで全身に舌が這いずり回っているかのようだ。ビリビリと電流のように身体中を駆け巡る。体を強張らせ、坂田さんの胸元においた手に力を込める。両手のひらで坂田さんの真っ白なシャツを更に固く握り締めた。
すると今度は彼のほうがビクリと小さく反応をみせ、瞬時に唇が離れていく。辿々しく私の顔色を伺いながら「もしかしてキスは駄目だったん?」と聞いてきた。