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【R18】家政婦の記録簿【うしさせ】

第1章 あほの坂田(となりの坂田)


自分があまりにもガチガチになっているため、坂田さんにまた気を使わせてしまった。言葉なく彼を見上げ続けていれば彼もまた、無言で私を見つめ返す。

「だめとかじゃないんです。はじめてだったので少し、緊張してしまって…」

特に良い誤魔化しも思いつかず、正直にありのままを伝えることにした。丸くて大きな目を更に大きく見開かせ、坂田さんはボソリと「まじか」とだけ呟いた。

「すみません」

いたたまれない気分でそう謝れば、背中に腕が回されて、真っ白なシャツを着込んだ胸元へ顔を埋めるように引き寄せられる。すっぽりと包まれる形で抱きしめられれば擦れた低めの声が頭の天辺から降り注いだ。

「はじめてがさ、俺なんかでえぇの?」

顔をみるために見上げてみると、その瞳には不安の影が色濃く残っている。

「私、はじめての相手が坂田さんで良かったって思ってます。今日一日、ヘマしてばかりだったのにずっとフォローしてくれて。私、要領悪いから、いつも苛ついたり呆れたりされることが多かったけど、坂田さんはどちらの感情もみせないでずっと親切に付き合ってくださって」

「そんなん。はじめは誰だって間違えるやん。最初から何でも完璧にこなすなんて無理やし。俺も人より不器用で頭も良くないし。要領も悪いほうやから、なんか、必要以上に焦ってパニックなって失敗するんわかるんよ。新入社員の頃とかよーヘマばーっかしとったわ」

過去を思い出しているのか?目を細めてどこか懐かしそうに遠くを見つめている。

「それでも、坂田さんのように他人への許容範囲が広い人って実はそんなにいないんですよ」

自分にはゆるいけど他人には厳しい。自身に限ってそうではないと思っている人ほど、第三者目線で見れば正にそれだということが多い。自分の事はちゃっかり棚に上げて他人への批判には意気揚々とする。

しかし、彼の場合はどうだろうか?この人はいつだって冷静に自分が相手の立場だったらどうだろうか?と考える力がある。一見、ふわふわとした雰囲気をまとっている為、そんな風には見えないのだが。
そして、彼のように攻撃性の全くない言葉を選んで使い続ける事はとても難しい事だ。

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