第2章 センラ
「そうだ。俺、明日から出張だから。代理が一応本社から来るが…まぁ、何かあったらよろしくな」
proを経営している株式会社は他にも様々な事業に手を出しているらしい。その為、立場上この上司も出張やら、本社へ出戻りやらが度々あるらしいのだ。
「すぐ、戻ってくるんですよね?」
決めつけで言ったのは課長が長く不在になることを不安に思っているわけではない。
決して……そうではない。
私の問いかけに答えることなく、課長は苦笑いをした。なにかもう一悶着言おうと思ったが特に何も言えずにそのまま事務所を後にするのだった。
次の日の午後、私は昨日と同じエントランスの前にいた。インターホンを鳴らすもなぜか返答がない。もう一度鳴らすがやっぱり音沙汰がない。
昨日の出来事はもしかしたら自分に都合の良い夢だったのかもしれない。
そう思いはじめた時、後ろからなにやら声が聞こえてきた。
「待ってぇ〜!帰らんといてぇ〜!」
どこか気の抜けるような、可愛らしい声色。普段の妖艶な声と同一人物とは思えないが間違いなく、彼だ。
振り向いて確認すれば、額や頬から汗を大量に流しながら、センラさんは私のそばへとやってきた。
相当遠くから走ってきたのだろうか?息切れはあまりないものの、汗の量が兎に角凄い。
そして、彼の手にはスーパーの袋が2つ。そのひとつには沢山の飲み物が詰め込まれていた。
「一緒に飲もうおもたんやけど、なにが好きかわからへんからたくさん買ってもうた…」
そう言って、照れたようにはにかんだ笑顔をみせた。今日の彼は声のトーンがふわっと柔らかくていつもよりもぐっと幼くみえる。
そんな彼をみているとなんだか胸の内がこそばゆい。自分の頬が赤くなるのを感じて思わず視線を外した。
「あぁーーー!なんでぇ?」
急に大声をあげたセンラさんにびっくりして再び視線を戻す。飲み物とは別にもう一つ持っている小さめの半透明袋。その中身を確認してどうやら彼は声を張り上げたらしい。
「どうしたんですか?」
「…お酒も買ったから、なにかちょっとしたおつまみでもとおもて、焼き鳥買ったんやけど…」
綺麗に半分に折られたレシートを彼が開いて私に見せる。印刷内容を確認すれば、確かに焼き鳥を6本ほど買ったようだ。が…。
「一本しかあらへん…」