第2章 センラ
気持ち悪いくらいの甲高い声。おっさんのそんな声は聞きたくなかった。そう悪態をつきながら眺めていればどうやら通話が終了したらしい。
「おっ!帰ったかぁ〜。いやぁ、お疲れお疲れぇ。あっ、コーヒーでも飲む?いれてきましょうか?」
まるで、代官様の帰りを待ち侘びた農民のように太鼓持ちをする。白々しいその姿勢に冷ややかな視線を投げつければ、課長はわざとらしく咳払いをした。
「先ほど、センラ様から連絡がきた。また、次もおまえを指名したいそうだ」
「えっ!指名…ですか?でも、課長。私、今日夜の方で粗相をしてしまいまして」
「それも相手さんから聞いてる。センラ様は、全く気にしていないので普通に支払いをさせて欲しいとおっしゃってくださった。そのかわり、これからも自分が優先的におまえを指名させて欲しい、とのことだ」
信じられなかった。そんな好条件をセンラさんが申し出てくれるなんて。そして、料金に関しては完全に先手をうたれた。先に課長を丸め込まれたらもう自分はどうしようもない。
しかし、なぜ?次の指名も自分なのだろう?
とりわけすこぶる美人なわけでもない。どこにでもいるいまいち垢抜けない、田舎娘なのに。
「とりあえず、明日また指名入ったから。夜勤だけね」
「わかりま……あ、した?ですか?」
随分と早急だ。しかし、彼にまた会えることは素直に嬉しい。嬉々たる思いを胸に秘めているとふとジトリとした嫌な視線を前方から感じる。
「柳田…明日は確か、公休になっていたはずだが、予定は入れて…ない、よな?」
なるほど。よくよく考えたら明日は休みだ。それを本人に確認もせず勝手に仕事を入れたわけだ、この課長様は。
「暇でしたけど…」
「そうだよなぁー!おまえ仕事以外にやることないもんなぁー!彼氏もいないだろうし、趣味も無さそうだし!いやー、良かった。明後日に公休は移動しといてやるから安心しろ!日勤の方は他の奴らに回らせとくから」
「……了解しました」
上機嫌で鼻歌を口ずさむ上司を尻目に、心の中でこっそりと舌打ちをした。