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【R18】家政婦の記録簿【うしさせ】

第2章 センラ


「しるし、残したかったんです。ここに来たっていう証」

もう、二度と来れないだろうから。あなたに私の存在を少しでも残しておきたかった。そう言ったら、きっとセンラさんは呆れるんだろう。

「そんなん。残さんでええよ」

ほら。やっぱり。嫌がった。

沈む気持ちを必死に押し殺そうとすれば、センラさんの手が私のアゴにふれる。ゆっくりと顔をあげさせられて、泣きそうな面のまま彼と向き合った。

無表情で見つめる彼の目が僅かに細められる。そのまま、顔が近付いたと思ったら柔らかな唇が口に重なった。

思わぬキスにビクリと体が跳ねる。それを感じたセンラさんがすぐに唇を離した。

「まだ、あと二分あるやん」

甘えるように。どこか、拗ねるように。言い訳がましくそう口にした。自然とまぶたを落とした私に彼の柔らかな唇が降り注ぐ。角度を変えて、何度も、何度も。
舌をいれないで優しく、ふれては離れてを繰り返した。

「本当に、これでもう終いやね」

名残惜しそうにそう彼は言った。少しでも私を求めてくれたと思い上がってもいいのだろうか?
そうだったら嬉しい。だからその顔をみれただけで、もう十分な気がした。

「送迎車、待たせてるんやない?」

そんなセンラさんの一言によって慌ただしく彼の家を飛び出した。最後の余韻にも浸れぬまま、私の初勤務はあっさりと幕を閉じた。


※※※



事務所へと戻ればやけに機嫌の良い課長の声が聞こえた。今日はこの人のおかげで散々な目にあった。
そう、上司に今日の失態を責任転嫁しつつ、いまだ誰かと通話を続ける彼のデスクへと近付く。

「はい。では、改めまして。明日ですね。もちろん、大丈夫でございますぅ。…はい。はい、いえいえ!こちらこそ、本日は大変ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません。また、なにとぞご贔屓に。よろしくお願いしますぅ。では、失礼いたします」
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