第2章 センラ
ずっと、気がつかなかった。思い返せば、そうだ。いつだって、そうだった。
なにかと休憩を挟んでくれていた。私が呼吸を整える時間を、ちゃんとずっと、彼は作ってくれていた。
「毎回ってわけちゃうよ。気付かん時もあったし」
バツが悪そうに、そうフォローをいれる彼をみて、胸が張り裂けそうなほどに苦しくなった。
自分の欲を抑え込んで、自分がイクことなんて後回しにして。私への優しさを優先する。自己犠牲伴う彼の思いやりはどこか切なくて、やるせない。泣きたくなるほど、心憂い。
「どうして…?」
やっと絞り出した声でそう質問する。
「イった後ってめちゃくちゃだるくならん?それが何回も繰り返されると明日にまで響きそうやんか。香澄ちゃんがもし、明日も仕事あるんやったらあんま無理させたら可哀想やなぁって。思うてしもたんよ」
頬をかきながら、どこか落ち着きのない素振りで彼は話す。
「時間も時間やし。今日はここまでにしよか?」
私の乱れた服装を自分そっちのけで直そうとする彼をみて、もう本能的にこの人は他人を気遣ってしまう人なんだなぁと思い知る。
思い知って、そんな彼を愛おしいと思う。
徐ろに。衝動的に。私に近付いた彼の鎖骨に唇をつける。綺麗に浮きあがった鎖骨にひとつだけある大きめの黒子。そこを甘噛みすれば「いっ…」と小さくセンラさんが反応した。
でも、拒絶はされなかった。それをいいことに今度は思いきり、吸いついてみる。
「ッは。ほんまに、どこで覚えてくるん?そういうこと」
低く、息を吐きながらセンラさんが質問を投げかける。私が「課長から借りたAVで…」と答えればそれはそれは般若の様な恐ろしい顔が目の前に浮かび上がった。
「へ〜ぇ。またお得意の課長はんですかぁ〜?」
「お得意ではな」
「わかっとるがな。嫌味やただの。察しろそんくらい」
怒ってる。顔をみる勇気がなくて俯いた。でも声だけでわかる。なぜか、イライラしてる。