第2章 センラ
「……はぃ」
一言。そう答えた自分の声が震えに満ちていた。驚くように目を見開いた彼が一歩、私との距離を縮める。
「なんや、えらい緊張してはるのね。処女みたいやなぁ」
きっと彼は冗談のつもりで吐いた言葉。その単語にびくりと大きく反応すれば彼はますます、驚いたという顔をむける。
「え?ほんまにそうなん?」
「はい。夜のお仕事も今日が初出勤で…」
処女なんてめんどくさいと思われただろうか?それとも、処女でこの仕事をしていることに引かれただろうか?
恐る恐る彼をみれば、驚いた表情のまま彼が疑問を口にした。
「はじめてがこんなおっさんでえぇんか?」
「…ふっ」
なんとも。予想外な。間の抜けた質問。
色々と心配していた自分が、馬鹿らしくさえ感じて一気に肩の力が抜けた。
「いいです」
「おっさん否定せぇや!まだまだ若いですよぉ〜とか言えや!お世辞でもいいからフォローせぇや!」
「お世辞でもいいんですか?」
「…お世辞は、嫌です」
結局嫌なんじゃん!というツッコミを心の中でして、ふふッと小さく笑えば彼の体温をすぐ、真横に感じた。
「まぁ、来年三十やし。立派なおじさんですけどね」
そんな事もないと思うけど…。
確かに、彼の容姿は大人びていて妖艶なイメージをもつ。韓国の俳優のような色気、艶っぽさ。しっとりと作る笑みはその特徴的な大きな口もとで女性を淫らに誘いこむ。その甘い顔だちは怖いくらい、強く情欲をかき立てる。
しかし、不意打ちにフッと笑った力の抜けたえみだとグッとイメージが異なるのだ。
幼さを強調させるエクボが片側にだけ生まれ、細められた目に優しさが宿る。途端に、かわいらしく、愛らしくみえるから不思議だ。