第2章 センラ
色とりどりなメガネが並べられたショーケース。そこから一つ取り出せば、専用のクリーナーとクロスで仕上げを施す。センラさんに任された最後の仕事がこの数ある眼鏡達の洗浄だった。
「もう終わった〜?」
「はい。これで最後です」
背後から声をかけられて、手元に注意を注いだまま答える。後ろから彼がこちらに近付く物音がしてふと疑問に感じた事を口にだした。
「コレって度が入ってないんですね」
「うん。視力はいいからね。眼鏡が単純に好きなんよ」
伊達メガネ、というやつか。日々、眼鏡やらコンタクトが欠かせないド近視な自分からすれば眼鏡をしなくて良い環境は羨ましい限りなのだが。自分にとっては完全なる日用品となっている眼鏡すらおしゃれアイテムとしてカウントしてしまうところが凄い。
「目が良いの羨ましいです」
「香澄ちゃん、目ぇ悪いん?今日はコンタクトなん?」
私の目の中にあるコンタクトをみつけようと、センラさんが距離を縮めてきた。
「カラコン?」
「いえ、普通ッ…の…」
至近距離で彼の声が聞こえて。間近で彼の瞳が自分をとらえているのがわかって、思わず体が硬直した。
「そういえば…」
センラさんの声が、心なしか普段以上に甘く聞こえる。全く他に移すことのない真っ直ぐな眼差しによって、今にも倒れ込んでしまいたくなった。
「香澄ちゃんはNG行為とかあるん?最初に聞こう聞こうおもてて、忘れとったわ」
NG行為とはきっと夜の行為についてだろう。嬢によってはキスが駄目とか、本番行為が駄目とか条件をつける人も確かにいる。
「異色なものでなければ、できる限りは相手の希望にあわせたいです」
「キスは?」
「だ、大丈夫です。本番も…大丈夫です」