第1章 あほの坂田(となりの坂田)
「すみません。ペットボトルのゴミはどこにまとめておけば…」
「あのぉ、ゴミ袋はどこに?」
「テーブルの下に散乱していた充電器達はどこに片付ければ…」
「えっと…シーツの替えとかありますか?」
そんな風に一々聞きに来るものだから、何度目かの訪問で坂田さんは呆れたように笑った。
「なんや、ようけ聞きにくるなぁ」
「すみません…」
「別にええけど」
後から考えれば、毎回聞きにいかなくとも要領良くやる方法はいくらでもあった。自分はどうも想定外の事態が起こるとパニックになるたちらしく、坂田さんの優しそうな雰囲気も合わさって、彼に頼りきってしまったのだ。
これではいけない、と落ち込む私の隣に坂田さんがそっと座り込む。
「……?あの?」
「俺も一緒にやろか?2人でやれば早く終わるやん。それにちょこちょこ聞きにこんでもよくなるやろ?」
「だ、だめですだめです!依頼主様を一緒に作業させるわけにはいきません!」
自分の仕事をお客様に手伝わせるなんて、そんな事は前代未聞の話だ。
「なんで駄目なん?自分の部屋、自分で掃除するだけやん」
「ですが…」
料金が発生している以上、私がやらなければいけない。これでは給料泥棒になってしまうではないか。
眉をしかめたまま、困り顔で固まる私に優しく諭すように彼は言った。
「俺さ、いつもここ利用する時はライブに忙しくてな。部屋は今日以上にごちゃごちゃしとるし、夜のほうも…ほんま、抜いてもらうだけって感じやってん。ただ、今回は時間に余裕もあるしたまにはゆっくり利用したいなーおもてて」
少しだけ照れ臭そうに坂田さんは指先で頬を掻く。くしゃりと歪んだ笑みが彼を一層幼くみせた。
「いつも指名してる子やなくて、キミみたいなタイプにしてもらったんも、ちょっとした恋人気分を味わいたかったからなんよ。一緒に部屋の掃除をするとかいかにも同棲中のカップルがやりそうやん。そういう経験がしたいねん!協力してや!」