第1章 あほの坂田(となりの坂田)
細かいことに悩みすぎて先に進めないのは自分の悪い癖だ。分かってはいるものの、自己判断が出来ずにドアの前で数分もたついた。
そのうち扉がガチャリと音を立てて開かれ、中から顔を出したのは明るい赤髪の、目がまん丸とした小動物のような愛らしい顔をした青年だった。
童顔で少年のような幼さの残る顔立ち。中性的なその外見は可愛らしい、可憐などの言葉がぴったりと当てはまる。
「なにしてんの?ずっとここにおったん?」
驚きと少し呆れたような表情で彼は私をまっすぐみつめる。そらされることのないその視線に、恥ずかしさとくすぐったさが混ざって、頬がカッと赤くなるのを感じた。
「す、すみません」
やっとそれだけ口にすると「まぁええわ。上がって」と言われ、玄関の扉が全開に開かれた。
パッとみはキレイに整理も掃除もされているように感じるが室内に入るとあちこちと粗が目につく。
キッチンの下には飲み終えた空のペットボトルが数本転がり、なぜかみなゼロカロリーのコーラで揃えられていた。
廊下の四隅にわずかにたまる髪の毛。窓の冊子もほこりで少し汚れている。
カゴにたまったままの洗濯物。物が散乱したままのテーブル。
「とりあえず、全体的に掃除とかもろもろお願いしてええかな?」
全体的、というなんとも抽象的な要望をだされこれはやることが多そうだ、と唾を飲み込んだ。
「かしこまりました」
ひとつ返事をして、まず洗濯機を回そうと行動にとりかかる。が、周囲を見渡せど洗剤が見当たらない。
「あの…洗濯洗剤はどこでしょうか?」
「ん?ラックの1番下のカゴにあったと思うけど」
「えっ!?すみません」
洗面台の下に備わっている戸棚は開けど、ラックまでは見落としていた。もっとしっかり探せば、わざわざ聞く必要もなかったのに。
その後、掃除をしようとキッチンへ行く。しかしことあるごとに坂田さんを呼び出すはめになってしまった。