第1章 あほの坂田(となりの坂田)
それから、坂田さんが連絡してくれて課長やお嫁さんなどがこちらに駆けつけてくれた。慣れた手つきで彼は菊江さんにバイタルを測ったり、どこかにぶつけてしまったという膝の擦り傷の処置を施している。
捜索願いを出していたということで、警察への状況説明や、病院に菊江さんを搬送する際、医師への説明なども坂田さんは冷静にこなしていった。
真剣な表情で、低めの声色で、淡々とこなす彼はいつもみている彼と全然違くて。菊江さんに寄り添いながら、私はずっと、彼から目が離せなかった。
結局、そんなこんなでお詫びとして課長がサービスした長時間利用もすっぽかす形となってしまった。
後日また改めてという話だったが、それから坂田さんの予約がぱったりとなくなった。なにやら浦島坂田船のLIVEが決まって連日、バタバタしているらしい。
ようやく予約がはいったのが、夜もすっかり過ごしやすくなり、日中は熱中症なども注意されるようになった初夏の午後だった。
いつものようにインターホンをならせば、少しくたびれた様子の坂田さんが顔を見せる。
「おっすぅ〜」
「こんにちは。なんだか、お疲れですね?」
「ん〜…。明け方までずっと録音してたからかなぁ。一応、仮眠したんやけど」
ぼんやりとどこか眠たそうな様子のまま彼は私を部屋に招き入れた。
うわぁ…これは…大変だ。
今までにないくらいの散らかりようで部屋中が散乱している。相当、忙しい日々を送っていたらしい。
匂いの原因となるものはしっかりと処理してはいるものの、コンビニのビニール袋や若干懐かしく感じる空になったゼロカロリーのコーラがあちこちに落ちていた。
「では、早速片付けていきますね」
そう言って空のペットボトルを集めはじめるが、何やら視線を感じる。ずーっと坂田さんから見られている気がするのだ。