第1章 あほの坂田(となりの坂田)
「ぁ…ッん!スマホ…鳴って、る」
廊下をまっすぐ指さした私の腕に、彼の視線が絡みつく。
「光っとんな。誰からー?」
「わ…かんなぃ。んんッ…」
最後に思いっきり膣内でイかされて、彼の塊が抜き取られた。
助かった。これで少しは時間稼ぎができる。
しかし、スマホの用件もきっとたいしたことはないのだろう。すぐにはじまる2回戦に、自分は耐えられるだろうか?
不安に駆られながら、息も絶え絶えに画面をスクロールする。事務所から発信されたメッセージ。そこには…。
「え…嘘…」
「なになに?どしたん?」
背中に彼の体温を感じる。顎を肩に乗せられて後ろから坂田さんが私のスマホを覗き込んだ。
「菊江さんが…脱走ッ!」
「誰なん?それ」
「どう、どうしよう!探さないと!行かないと!」
部屋から飛び出そうとする私を坂田さんが力いっぱい抱きしめる。
「落ち着けって!そんなナリでどこ行くん?すっぽんぽんやで?自分!」
「……あ」
メッセージの内容は、施設から帰宅した菊江さんがお嫁さんが仕事から帰る前に鍵を自分で開けて外へ出て行ってしまった、ということだった。
菊江さんには認知症という病気がある。一般的にボケといわれている症状で、自分の家どころか交通機関の使い方さえもう、理解できてはいない。
誤って赤信号を飛び出したり、線路の中へ侵入したり。そんな行為をする危険性も十分にあり得るのだ。
脱ぎ捨てた衣服を身につけながら、私は坂田さんに事情を説明した。まだ、彼との利用時間は終わってないが、自分を菊江さんの捜索に行かせてほしい、と頼んだ。
「ええよ。けど、夜はまだ冷え込むで。コレ、着ていって」
そういって上着の一つを私に差し出した。自分の身支度を整えながら、彼はなにやらパソコンを起動して、印刷をはじめる。