第1章 あほの坂田(となりの坂田)
「…あ…」
「あぁ?やっぱりか!今すぐそこからむかえ!完全に遅刻だぞ!走れ!」
「ひぇはいぃぃ!!」
駆け足をしたところで果たして意味はあるのだろうか?という疑問を残しつつ、駐車場に向かって全力疾走する。
途中、ちらりと後ろを振り返れば、施設のスタッフがなにやら菊江さん達に話しかけているのを確認した。
菊江さんに怒鳴りつけていたあの老人を止めてくれたのだろうか?
車に乗り込んだ後も気になって窓から彼女達を覗き込む。しかし、事の真相など分かるはずもなく、菊江さんを引き連れた団体はゆっくりと派手な色の施設の中へと消えていった。
※※※
「おっす〜」
「すっ、すみっ!すみませんッ!遅れました!」
息も切れぎれのまま、玄関先のチャイムを鳴らせばドアが開くと共にのんびりとした彼の声が聞こえた。
「えぇよ。遅れた分、サービスでいっぱい延長させてもらいますって鷺橋さんいうてたし」
「えっ!課長が?」
あの電話の後、本格的に遅刻だろうと悟った上司が坂田さんに連絡をつけてくれたらしい。私が遅刻をした分の時間プラスアルファで迷惑料として長時間の延長コースが無償で追加されていた。
「本当にすみません。お時間、大丈夫なんですか?」
「明日の夕方まで予定はいっとらんから、へーきやで」
なら良かったとホッと胸を撫で下ろす。と、同時に課長は何時まで延長したんだろう?と疑問に思った。ここに来ることばかりに夢中で確認するのを怠ってしまった。
気になってチラリと仕事用のスマホを確認する。案の定、利用時間変更を知らせるメッセージが入っていた。
「ひッ!19時から…7時!?朝の?」
どういうことなのか?一体、課長は何を考えているのだろう?