第1章 あほの坂田(となりの坂田)
1人だから上手く説明出来るか不安だったが些か安心した。安堵の笑みを浮かべながら、私は建物の中へと足を踏み入れた。
※※※
「……惨敗した」
時は経ち、再び施設の外へと放り出された私。結果は散々だった。まず、客間へと促された私の前には相談員名乗る2名と看護士、介護士という役職の人が1名ずつ。
計4名によって話を聞いてもらった。
しかし、私の聞き方があらゆる誤解を生んでしまったのだ。
最近、入浴時に体に痣などはなかったか?痛がる様子は?などと質問をしたのだが、どうやらそれが癪にさわったらしい。
私がここの施設の職員が菊江さんを転倒させ、それを隠蔽したのでは?と勘繰って来たと思われたのだ。
それまでの職員の笑みが消え、虚ろな真顔へと変わる。
口をへの字にして、こちらを睨みつける露骨な人もいた。
「そちらで働く方達はとても優秀な家政婦さんと聞いていますが、何か福祉系の資格などはお持ちなのでしょうか?」
そんなとっかかりから始まり、勤務年数や菊江さん家の滞在時間。
菊江さん宅訪問時に何をしているのかなど、ことごとく質問攻めにされた。
「まだ、勤務したばかりの新人さんでしたか。それは毎日大変でしょう?業務に追われっぱなしで中々菊江さん自身をみてあげられていないのではないですか?見守りを疎かにしたばかりに本人が自分でどこかぶつけてしまったなんてこと、よくあるんですよ」
「痣を見つけたんだとしたらそちらを利用中、あなたの不注意でついたものなのでは?その可能性の方が高いですよね?」
派手な髪色をして無精髭をはやした男性がぶっきらぼうにつぶやいた。
実際に痣があるなんて誰も言ってないのに!そう思って、言い返そうとした時だ。
「わざわざこっちに押しかけてまでなすりつけかよ」
そう隣の職員に耳打ちする声が聞こえた。それはしっかり、一語一句こちらに聞こえる声のボリュームだった。