第1章 あほの坂田(となりの坂田)
※※※
「次の坂田さんとの予定は来週の月曜になったわけね。オッケーオッケー」
あれから、何とか起きあがってシャワーを借りた私は次の約束をぼんやりとやりとりした後、proの事務所へと帰ってきた。早速次回の予約を上司に報告すれば、いつも厳しい顔ばかりみせる課長がみるみるご機嫌になるのがわかる。
「一週間も空かずに行くのですが…」
「いいんじゃない?相手が違かったら一週間くらい空けるのが理想だけど、同じ人なら毎日だっていいんだよ」
ここは『あなた専用の夜のお相手、みつけます』という謎のキャッチコピーを掲げてやっている。
その人だけの特別な相手、というのがproの売りなのだ。
よって、キスマークなどを客からつけられた暁には、それが完全に消えるまでは次の客をとらない、というのが絶対のルールとなっていた。前の客(男)の気配を一切させないことが暗黙の掟というわけだ。
他のソープのように1日に複数人相手にすることはまずない。運が良ければ、永久指名というものをしてもらえ、その指名を受けた嬢は解約さえされなければずっと1人の人とだけ関係をもつことが許されるのだ。
「頑張ってまた指名してもらってね。じゃ、お疲れ。明日からは通常の家政婦の仕事にも入ってもらうから」
ここはあくまで裏稼業として夜の仕事を扱っており、通常の家政婦業務だけを希望する客も多い。
もちろんそちらも嬢の人達が請け負っていることがほとんどで、新人の私たちにとって家政婦としてのスキルを高める時間となっていた。
「明日は普通の家政婦としての仕事が三件か」
通常は1日に四、五件のお宅を訪問するらしいのだが、まだ新人ということで少なめに予定を立ててもらっている。一件、一件の利用者ファイルに目を通しつつ、その日は過ぎていった。