第2章 センラ
食事や片付け諸々終わり、2人でリビングのソファーに並んで座る。正面のテレビを流しっぱなしにしてぼんやりと眺めながら考える。
今日のセンラさんはどこかおかしい。背中に回された太い腕。自分の腕をさする大きな手のひら。彼の胸元がすぐ近くにあって。彼の香りがすぐ、近くでかおる。時折、もう片側の手が私の頭をなでる。自分の方へと、引き寄せて、引き寄せられてテレビが見えなくなった。
抱きしめられて、広い熱い胸もとに顔をうずめながらやっぱり変だ、と思う。
こんなこと、いつもならしない。普段の彼はセックスの時以外は比較的私と距離を保って接している方だ。故意にふれることもあまりしないし、人一人分の空間が彼との間には常に存在していた。
なのに、今は違う。
はじめは、てっきり行為がはじまる合図なのかと思っていた。そう思って身構えもした。
けれど、一向にそんな雰囲気にならない。我慢している、というわけでもなさそうだった。
まるで飼い猫をなでて愛でるように。赤ん坊を抱っこして可愛がるように。
さわって、なでて、抱きしめ続けて。そのまま…自分だけテレビを楽しんでいる。こちらは全く画面が見えないというのに。
「センラさん…」
少し、離れたい。なんとも贅沢な申し出とわかっているが、これでもこっちは慣れない状況にずっと緊張しっぱなしなのだ。
「ん〜?えぇよ?」
名を呼ぶだけで私の言いたいことが伝わったらしい。さすが、空気を読むのが上手い人だ。
彼の顔が近付く。大きな瞳に気を取られているとチュッと唇がふれた。
……要求はキスして欲しい、ではなかったのだが。
「なんやねーん。さてはその顔〜。物足りないって感じやな?もぉ〜香澄は欲しがりさんなんやからぁ」
いやいや。違う。ぜんっぜん。違う。そしてなぜに言い方がそれほどまでにねちっこいのか?
この人、こんなに綺麗な声をしているというのに。時々宝の持ち腐れのように、その価値をドブに投げ込むような行為をしてみせるのだ。
そんなところがなんともむず痒くて、けど、愛らしくて、いとおしい。
何も言えないかわりに彼の胸に再び顔を埋めた。両腕で広い背中を抱きしめる。本当は離れたかったのに。彼の声を聞くと、甘えたくて触れたくなってしまうから不思議だ。