第1章 あほの坂田(となりの坂田)
私にとっては魅力の一つだと思っていたのだが、彼自身にとってはそうでもないらしい。あからさまに嫌そうな表情で自分の顔を両手で隠し出した。
「なぁ、そろそろベット行かへん?」
話題をそらすようにそれだけ言うと、坂田さんの腕が背中に回されて半ば強制的に立ち上がることとなった。
自分よりも頭ひとつ分ほど背の高い彼が横に並べば、ちょうど、心臓の位置に自分の耳が押し当たる。
微かに聞こえるその鼓動。その早さに少しだけ驚いて、足を前に運びながらも彼に視線を送った。
私の一瞥を受けた坂田さんが横顔のまま表情を崩す。苦笑いをしながら、腰に回された腕に僅かに力が加わった。
「今日はなんや、俺もちょっと緊張しとるんよ。俺とが初めてでさ、嫌な思いさせたらあかんなぁって。それでこの仕事が苦痛になったら、しんどいやん」
扉が開かれ、今はベッドのみ置かれた寝室が姿をみせる。昼間来た時にはこのベッドの上には服がちらほらと出しっぱなしになっていたものだ。
髪の毛一つない、洗いたての布団カバーの上に私が座り込むと腰に回されていた手がするりと解かれ、私の上に馬乗りするような形で彼の両足が太ももを挟んだ。
徐々に坂田さんの体重が私に押しかかってくる。両腕で前方から抱きしめられ、自分の顔が胸もとに押し当てられた状態で上から彼の甘い吐息が聞こえた。
耳元に坂田さんの唇が近付く。耳たぶを甘噛みされて、思わず全身の筋肉がひくつく。耳の後ろを舌でなぞられれば、迸る快楽に膣の奥がキュッと疼いた。
「一緒に気持ちよくなれればえぇな」
普段の声よりもずっと高くて甘い音色。低くて割と落ち着いた声質だと思っていたが、今は息切れや吐息までもが高い。声変わり前の小学生男子のように、高くて幼い。なのに、どこか人を欲情させるような色気ももつ。
清らかさと淫猥さがマーブル状に溶け合ったような声音で坂田さんは私を惑わす。ゆっくりとたくし上げられたポロシャツからは先ほど外されたブラジャーがだらんと覗かせて、自身の胸があらわになった。