第2章 センラ
CMがはさまれると、よいしょと声をあげてセンラさんが立ち上がる。
「ここ、座っとって。なんか飲み物もってくるから」
ソファーをポンポンと軽く叩いた後、キッチンへと姿を消した。彼のいた場所の隣に腰掛け、ぼんやりとテレビの画面へ視線を移す。
「ほい。水でいい?」
「はい。ありがとうございます」
よく冷えたミネラルウォーターのペットボトル。それを受けとって口まで運べば、体に潤いが戻ってくるのがわかる。
「酒飲んだ後はよく水分とらんとね。脱水なるし」
そう言って、センラさんが私のすぐ隣へと座った。互いの太ももが微かにふれる。彼の熱を感じて、体が小さく跳ねた。
「ッふ。ほんまに、男慣れしてないんね。散々やることやっとんのに」
センラさんの体が私のほうを向いたのがわかった。胸元が自分に近付く。必死にテレビへと視線を送り続ける私の肩を彼の手が強めに押した。背もたれまで体が倒れる。と同時に彼が私に覆い被さった。体重がかけられて、腕を固定するように抱きしめられて。唇を奪われる。
味わうように角度を変えて、CMが終わり再び新人芸人による漫才大会が始まっても、彼の熱い唇が離れない。
「ん…んぅ。…ッは、はぁッ!んんッ」
わずかにできた隙間から少しだけ酸素をとり入れる。一瞬だけ呼吸を確保するもすぐにまた唇で塞がれた。
舌は入れない。重なるだけのキス。なぜか今日のセンラさんはそんな口づけを繰り返す。
もどかしくて、苦しい。抱きしめ返したいのに両腕の自由を奪われて抵抗も求めることも出来ない。
太ももに硬くて熱いモノを感じる。それに秘部を擦り付けるようにゆっくりと腰を浮かせた。
「ッふ。ふぁ…ぁあッ!」
甘い刺激に体が跳ねる。唇が離れて小さく喘ぐと両腕を締め付けていた彼の腕が解かれた。そして、勢いよく私から距離をとった。
「…ふぅ。今日は…もぉ、寝よか。寝室、一人でつこてえぇから。ゆっくり休んでな。あ、今!歯ブラシ新しいのだしたるな!」
息を乱したまま。思いついたように、彼は慌てた様子で洗面所へと去って行く。
「…なんで?」
風呂場の時といい、今といい、確実に彼は我慢している。欲を抑え込んでいるのがわかる。
それはなぜなのか?きっと、センラさんの事だから私の何かしらの心配をしているのだろう。その配慮が普段は嬉しいものだが、今はなんともじれったい。