第2章 センラ
向かい合って座ろうとする私においでおいでと彼が手招く。センラさんに背中を向ける形に向きを変えれば、彼の長い足が私の足をかすった。
顔が見えない分、少しだけ緊張は解かれる。「うぅん」と咳払いのようなため息が背後から聞こえた。
「もう、すっかり震えはよぅなったんね」
センラさんに言われて改めて思い返す。リビングに上がった時に沸きたった、思い出した恐怖心は割とすぐに消えていった。
なぜだろうと考えれば、やはり後ろにいるこの人の存在が大きいのだと思う。彼のペースにのせられれば、恐怖は安堵に。不安は安心に。悲しみは喜びにコロリと変わる。サイコロの目が転がっていくように。クルクルと、安易に変化する。
「センラさんって不思議ですね。魔法みたいに、人の気持ちを簡単にかえることができる」
「なんやねんそれ」
ふふっと軽い笑みを返して、センラさんの腕が自分のくびれにまわった。
「そんなこと、出来へんよ。他人なんて変えようと思っても簡単には変わらへん。自分のことやって根っこの部分は中々かえたいおもても、かえられへんもんやし」
「そうかもしれないですけど。私はセンラさんに出会って良い方向にかわれたって思う事、沢山ありますよ」
腰にまわされた腕に自分の手を添える。湯の中でも伝わる、彼の体温の高さ。
「今日、来てくれてありがとうございました。私一人だったらあの状況から抜け出すことはきっと出来なかった。センラさんにはいつも迷惑かけてばかりで、すみません」
「迷惑なんておもてへんて。何回言わせんの?」
腕の力が強くなって皮膚の密着度があがる。片手で強引に顔を後ろへと向かされれば少し無理な体制で彼に唇を奪われた。
お尻から背中にかけてピタリと添うように彼の硬直した欲が当たる。長く重なる唇の感触を受け入れながら、ここではじまってしまうことを予感して体の熱が上がった。