第2章 センラ
「なぁ〜んて。冗談…なんやけど…」
そう言っているそばから私が彼の胸に体を擦り寄せた。クスリと笑って、包み込むように彼の手が背中にまわる。胸元にぴたりと鼻をこすりつければ、彼の香水と体臭の混ざった香りがする。
エレガントさと爽やかさが入り混じった香水に樹木のような、森林の中にいるようなどこか安心する彼の体臭。それが交わえば脳に直接刺激を加えられたような。体が渦巻くような甘美な匂いに変わる。
自分の匂いと、香水との相性を彼は良くわかっている。わかっていてやっているのか、それとも天然なのか。
「良いにおい」
「よー言うわ。汗まみれなんやけど今。レンタカー屋さんまで爆走やったし…ちょ、あんまこすらんといて!やめーや!くさいって!あぁー!なすらんといてぇ!もぉ〜!いややって!」
強くしがみつくように抱きつく私を無理矢理はがそうとセンラさんの手に力が入る。両者一歩も引かぬ攻防が繰り返される中、ふいに自分の頬に彼の手がふれた。ぬくもりに誘導されて顔をあげればセンラさんの整った綺麗な顔がすぐ近くにあった。
「もぉ、かなんなぁ」
そう言って、困ったように笑った。額同士がくっついて、次に互いの唇が重なる。
あんなに嫌がっていたのに。何度も角度をかえてキスをしながら、センラさんは私を抱きしめる。その腕の力強さに少しだけ戸惑った。彼の体温ですっかりのぼせたように体が熱くなるとお風呂のお湯が沸いたことを告げる機械音が鳴った。ぼんやりと、なかば夢見心地のような気分で唇を離した彼をみつめる。
「あー。あかんなぁ、コレ。顔、真っ赤やん。まだ酔いが覚めてへんわ。このまま一人でお風呂入ったら危ないんちゃう?転んだりするかもしれへんし。まぁ、仕方ないから一緒にはいったるわ」
意気揚々と早口でまくし立てるとタオルやら着替えやらを二人分出してきた。とりあえず、彼について脱衣所に来てみたが、私の着替えがなんだかおかしい。上のロングTシャツは良いとして、なぜ?センラさんが普段はいているであろう男性用のパンツまで用意されているのだ?