第2章 センラ
コツコツとタイルを踏む足音。それが突然に止まる。
待てど、待てど。外の砂を踏み出す気配がない。
コツ。
コツ。
コツ。
ゆっくりと一歩、一歩噛み締めるように。それはこちらへとやってきた。
体に震えが走る。歯の奥が重なってカチカチと音をたてた。両手で唇を強く、強く押さえつける。
嫌だ。どうして?来ないで。こないで!
コツ。
コツ。
コツ。
その足音は急にやんだ。ぴたりと、止まった。そして…。
ギィィ……。
古い扉が開く音。隣の、隣の、隣。
一番、入口手前の洋式のトイレが、開かれる音。
コツ。
コツ。
コツ。
ギィィ……。
次は、隣の、隣。
二番目の洋式のトイレが開かれた。
もう呼吸すら出来なかった。一息すれば、相手に自分の存在が知られてしまうような気がした。
コツ。
コツ。
コツ。
ギィィ……。
隣の和式トイレの扉が、ひらいた。
もう、個室のトイレはこれで最後だ。お願い。このまま後ろに下がって。出て行って。
コツッ。
コツッ。
コツッ。
嘘だ。
なんで?
どうして?
近付いてくる。こっちに。もう、目と鼻の先にそいつがいる。
目の前の扉がわずかに開いた。外の光が肩にもれる。
嫌だ。
怖い。
イヤダコワイイヤダコワイイヤダコワイイヤダコワイコワイイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ…