第2章 センラ
鞄に手をもぐらせ、ハンカチを探しているとわずかな振動を察知する。センラさんからの着信を知らせる表示が画面に浮かび上がった。
「はい。柳田です」
「香澄、今どこにおるん?」
「まだ公園にいます。今は奥の公衆トイレに」
私はセンラさんに何件かタクシー会社に電話をしたがどこも捕まらなかった旨を話した。彼なら今の状況を抜け出す良い方法を教えてくれるかもしれない。
できる限り自分でなんとかしたかったが、もう他に良い案が思いつかない。
申し訳ないが、今回は彼に頼ることにした。
「もう少し、そこで辛抱しとって」
そう答えた彼の声にハモって『左折してください』という音声案内が聞こえた。
「あと三十…二十分で着くから!通話も、なるべく繋いだままにしよな」
彼のその言葉に驚きを隠せなかった。どうして?そう独り言のように呟けば、「なにが?」と返答がくる。
「この時間帯、タクシーは捕まらんやろなってわかっとったからまず先にレンタカー会社に電話したんよ。定期的に使ってるところが近所にあんねん。そこで車確保してもろて、営業所まで向かう合間に何件か俺もタクシー会社には連絡したんやけど、やっぱ無理やったわ。今、そのレンタカーつこてナビで公園探して、そっち向かっとるとこ」
早口で説明しながらも次々とナビの誘導に沿ってこちらへ向かっているようだ。度々聴こえてくる女性のアナウンスとセンラさんの優しい声色にホッと安堵のため息をもらした。
その時だった。
車のエンジン音がやけに近付いて聞こえる。その大きさが気になってトイレの小窓をわずかに開けた。隙間から覗いた景色は暗闇がどこまでも支配していて、所々にたつ街灯の灯りで僅かに状況がわかるくらいだ。
遊具の並ぶ広場のすぐ横。車止めのポール傍に停車した車の色は白だ。形状まではわからなかった。中から人が出てくるのを確認して窓を勢いよく閉める。