第2章 センラ
呆然と立ちすくんだ。その時、上着ポケットにあるスマホがわずかに振動した。手にとって画面をタップすれば、センラさんからの明日の予定を知らせるメッセージが入っていた。
いつも彼は利用前日になると、こうして律儀にメッセージをくれるのだ。それ以外にも時々、たわいのない話をどちらともなく交わしたりしていた。
返事を、しないと。了解ですとだけメッセージを打つんだ。いつも通りに。
でも。声が、聞きたい。一瞬だけでいいから。彼の声が聞けたら、ここから抜け出せる勇気が湧いてくるような気がするから。
二つの違った感情が生まれた。こんな時、つくづく自分は弱い。甘い。すがるように、通話のアイコンをタップした。してしまった。
タッチして、後悔した。駄目だ。センラさんに迷惑をかけるわけにはいかない。
すぐに通話終了のアイコンを押した。コールは鳴っていなかっただろうか?むこうに、自分の着信が残ったりしていないだろうか?
すぐに切ったし、大丈夫。きっと、大丈夫。
そう言い聞かせる自分の目の前で再びスマホの画面が光る。センラさんからの着信だった。
やってしまった。やはり、むこうに通じてしまっていたのだ。
深呼吸をして、通話に出る。
間違って、アイコンをタップしちゃいました。それだけ言って切ればいい。
「もしもし?電話なんてはじめてやない?着信残ってたんやけど間違いやないんよね?なんや、少し浮かれてしもたわぁ。ちょっとだけ、お話できる?」
やんわりとしたふわっとした優しい声色。どうして、このタイミングでそんな声で話すの?
必死に我慢してきたモノが崩れる音がした。気持ちが、壊れる。もう限界だった。
「………せんらさ…ん」
すがるように呼んだ名は、震えに満ちていて。いつもと違うと、相手に悟らせるには十分だった。