第2章 センラ
コンビニにでも駆け込んでタクシーを呼ぼうか?できれば、営業中の飲食店があれば一番ありがたいのだが。
スマホで現在地を調べ、ナビで周りにある建物を探す。コンビニは結構歩いた先に二件ほど、飲食店などある繁華街はかなり遠くになってしまうようだ。酔っ払った今の状態でそこまで歩いて行くのはしんどい。
とりあえず、立ち止まっていても仕方がないのでコンビニに向かって歩き出すことにした。そこまで行けば結構広めな大通りへと出る。運が良ければ、タクシーが捕まるかもしれない。
車一台ならば余裕で通れるくらいの車道。歩道のスペースは確保されておらず、道の隅に避けながら歩く。
前から車が来るのが見えて思わず立ち止まった。白いライトに当てられて、その眩しさゆえ相手の車種がわからない。
途端に、不安に駆られる。相手が見えないということは、いつあの男の車が来ても対応出来ないということだ。人通りのないこんな薄暗い道ではあっという間に車内へと引きずり込まれてしまう。
そうなったらもう逃げることは不可能だ。一度目のように不意をつくことも出来なくなるし、相手もそれなりに警戒するはずだ。
コンビニに向かっていた足が完全に止まった。手に震えが現れて、膝が笑う。通り過ぎた車は黒の軽自動車だった。あの男の車ではない。けど、自分の心を折るのには十分だった。
コンビニまでの道のりは長い。まだまだ、この狭く逃げ場のない一本道を歩いて進まなくてはいけない。そんなことが自分にできるのだろうか?本当に、無事に家に帰れるのだろうか?明日、私はセンラさんの家に家政婦としてちゃんと出勤することができるのだろうか?
どんどん、不安が自分の中で膨らむ。最悪な未来ばかりが、目に浮かぶ。
車に無理矢理乗せられて、ホテルに強引に連れ込まれて、体をさわられる。そこまで想像して、思い知った。
あぁ、私は。この仕事をする資格などないんだ。
気持ちが、拒絶する。センラさん以外の人にふれることを。ふれられることを。
そんなので、そんなことで。どうやってこの夜の仕事をしていこうというのだろうか?今のこの状態だって、客相手だと思えば、なんとでもなるはずなのに。
どうにだって、なるはずだったのに。