第2章 センラ
さっきから外の景色を確認しているがどこだかわからない。元々、東京に住んでいたわけではないので土地勘など全くないのだが。そもそも、ここは東京なんだろうか?
「ん〜?ちょっとドライブしようと思って。あ!どこか行きたいとこある?海とか連れてってあげようか?」
「すみません。さっきのお店に戻してもらえませんか?これまでのガソリン代はお支払いしますし、後は自分で帰れますから」
「そんなこと言わないで!デートしようよ!デート!したことある?楽しいよ〜きっと」
「…体調が悪いので早く帰りたいんです。お願いです。さっきのお店に戻してください」
「じゃあ、またちょっと寝てればいいよ!海に着いたら起こしてあげるね!」
駄目だ。どうしてかこの人に話が全く通じない。こっちの要望はお店に戻して欲しい。ただ、それだけなのに。
「お願いします。近くのコンビニでも良いので、おろしてください」
「わかった!ちょっと休憩できる場所に行こう!それで、朝になったらご飯食べて、遊園地でも行く?」
どうして?こんなにも会話がチグハグなのだろうか?
きっとこの男は私の要望など何一つ聞くつもりがないんだ。店に戻るつもりなんてないし。私を解放する気もないのだろう。
どうしたらいい?どうすれば、ここから逃げられる?
信号で止まる度に、男はナビを使ってどこか泊まれるホテルがないか探し始めた。Uターンした車が大通りから住宅街へと入る。
「こっちの方が近道みたいだねぇ〜。そういえば、香澄ちゃんってまだ若いんでしょ〜?羨ましいなぁ。俺なんてもう来年で三十だよ〜」
ということは、センラさんと同世代ということだろうか?横にいる男の顔を改めて確認した。黒く日に焼けた肌。ニキビ混じりのテカった顔だち。伸ばしっぱなしの無精髭が不潔感を助長させている。身なりを気にしないタイプなのだろうか?シワだらけのシャツに毛玉だらけのスウェット。チリチリに傷んだ髪の毛。