第2章 センラ
むわりと立ち込む、悪臭。廃墟寸前の、ろくに整備も掃除もされていない動物園の臭い。獣臭と何か、深く染みついたアンモニア臭のような。
吐き気を助長するには十分なものだった。
離れたい今すぐに。なのに、酷い立ち眩みで動けない。
じっとりと、滲みでるような脂汗が背中に湧き出す。頬を、伝う。反して、無数の鳥肌が腕に浮かび上がった。
匂いをこれ以上吸い込んでしまわないように、なるべく口で呼吸をして私はゆっくりと体を起こした。
「もう、大丈夫です。そろそろ、私帰ります」
「あら。それなら送って行くわよ。ねぇ?」
そう言って、楽しそうにはずむように、冴島さんが提案した。
「いえッ!自分で!一人で帰れま…」
その時、冴島さんに腕を掴まれ、強制的に立ち上がらされた。
途端に視界の歪みが悪化する。なんとか、支払いだけはと強引にお札を冴島さんに渡すものの、それからの記憶が曖昧だ。
無理矢理に歩かされると気分の悪さは更に加速し、最悪の状況となった。兎に角、早く座りたい。休みたい。
だから、やっと座れたと感じた時は心底ホッとした。体の力が抜けて、意識が、遠のいた。
「じゃあ、後は宜しくね」
そんな、冴島さんの声を最後に聞いたような気がした。
妙な悪寒が走って意識を取り戻す。変に体全身に力が入っている。朧げな視野が、少しずつクリアになっていく。
窓を流れる景色は、ここが高速で動き続けている事を知らせていた。煙草の匂いが車内に広がり、車の独特な香りと混じって強い臭気を漂わせている。
ゆっくりともたれていた体を起こせば、隣から男の声がした。
「あぁ〜。起きたんだね。良かった〜。ずっと寝たままだったらどうしようかと思ったよ〜」
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。あの…今、どこを走ってるんですか?」