第2章 センラ
それでも自分は何人か普通に話しかけてくれる人がいたから、気を持ち直すことができた。その人たちの存在がどれほどありがたかったか。自分も冴島さんにとってそういう存在になることができたら。そう、考えて食事に行くという選択をしたのだ。
要らぬお世話かもしれないし、当の本人はそんなこと、気にしていないのかもしれないが。
冴島さんに連れられてきた場所は、自分が普段入るには少し敷居の高い品のある料亭だった。
「これ、凄く飲みやすいのよ。美味しいから飲んでみて?」
そう言われて出されたのはワイングラスに注がれた日本酒。一口飲めば、控えめな香りにスッキリとした優しい甘さが広がる。
「美味しい!日本酒ってもっと飲みづらいイメージがありました」
「ふふっ。これならあんまり味に癖がないから。日本酒慣れてなくても飲めるでしょ?」
嬉しそうに話す冴島さんを見つめて、改めて思う。今日、思い切って食事に来て良かったと。
その後は冴島さんから、彼氏はいるのか?などの込み入った質問をされたり、日勤の仕事の話をしたり、様々な話題で盛り上がった。
飲みやすさも相まってお酒も量が進む。1時間ほど時間が経過した頃、視界がやけにぐらつくように感じた。
ふわふわとした心地良い感覚が一変する。周囲が、歪む。
まるで、キャスター付きの椅子に座らされ高速でグルグルと何回も回された後のように。世界が目まぐるしく滲んだ。
途端に気持ち悪さがグッと上がる。吐きそうになるのを必死に堪えた。
「あらあら。酔いが随分まわっちゃったみたいね。日本酒はアルコール度数高いから。でも、安心して。今、運転手呼んだから!ほら、丁度良いところに」
誰か、自分と冴島さん以外の人物が個室であるこの部屋に入ってきたのがわかった。「こんばんは〜」と挨拶をする、その声は低くしゃがれていた。