第2章 センラ
「お疲れ様です」と彼女に向けて返事をする。ふと、なにか違和感を持った。それがなんなのかわかるまでに数秒の時間を要した。
「首、どうかしたんですか?」
そうだ。彼女は先ほどから不自然に片手で耳の丁度下の部分を隠している。ずっとそこに手を置いているその姿は余りにもおかしな行動に思えた。
「相変わらず、よく気がつくね」
苦笑いをしながら、彼女がゆっくりと首元に当てられた手を外す。手のひらが離れたその場所には赤く丸い火傷の跡が残されていた。
「どうしたんですか!それ!」
「ちょっと、ヘマしちゃっただけ。もう薬も塗ってあるから大丈夫だよ」
「……客ですか?」
私の問いかけに罰が悪そうに苦笑いをする彼女。
この幼さを連想させる背格好や童顔な顔だちゆえに彼女の客層はロリコンでほぼ形成されている。
そして、彼女の客人の治安はすこぶる悪い。課長が慎重に人選しているにも関わらず。利用をはじめた途端に豹変する輩のなんと多いことか。
今回も火傷の跡から察すると、意図的に火のついたタバコを押し当てられたのではないだろうか?不注意で、などという言葉が彼女から出てこないということは、故意にされたことをこの人も理解しているのだ。
子供に欲情するような奴はろくな思考の持ち主がいないと、彼女の客人を見ているとつくづく実感する。
「出禁にしないんですか?」
「ん〜?別に、大丈夫じゃない?」
課長がここにいたら一発で契約破棄案件なのに。この人はまたそんな事をした客の元へ行こうというのか?
再び口を開こうとした私に彼女は前方を指差して言った。
「ほら、行った方がいいんじゃない?呼んでるよ?」
1番奥の、普段なら課長がふんぞり返って座っている椅子に今はとある女性が座っている。
課長と同じくらいの年代のその人は課長が、自分が出張中の代理として派遣した人物だ。キッチリとしたビジネススーツをさらりと着こなし、できる女感を醸し出している。
その女性、冴島さんが私に向かってにこやかに手を振り上げた。