第2章 本丸での新生活ですよ。
廊下は走っちゃいけないと、学生の頃に言いつけられていたので競歩で審神者部屋に戻った依織。
押入れの布団に手を掛けながらも、そこで動きを停止していた。
『…今日は、ここで寝てくれないか』
先程の山姥切の言葉はリフレインされる。
みるみるうちに顔が熱くなってきて、変にドキドキしてくる。
だが、瞬時にハッと我に返った。
(いや!まんばくんは人間一日目だからわからないことだらけで不安なんだよ!)
考えてもみなさい。
子供は最初から全てを知ってるわけじゃないんだから親から教わるんじゃない。
それと一緒!
と、少しずつ自分を落ち着かせる。
そもそも異性に対して以前に、同じ人間に対して全く関心が無い自分がどうしてこんな風になっているのかが不思議だった。
(元が武器で人知を超えて綺麗だったからかな…?)
山姥切の美しさは、現世の街を歩かせた途端に注目の的となり、逆ナンやスカウトが湧いてきてもおかしくない。
やはり付喪神…神様だからだろうか。
そんな神様が自分に対してあんな…あんな…
またリフレインされそうだったので、頭を切り替えることにした。
「私は…退屈に殺されるなら、戦って死ぬ…その為に審神者になった…そうでしょ…?」
そう自分に言い聞かせる依織の瞳は、昏い光をたたえていた。
「おっまたせーっ!」
スパーンと襖を開けて布団一式を山姥切の部屋に運び込んだ依織は彼の隣に布団を敷くとすぐに中へ入った。
山姥切も灯りを消すと布団の中へ入る。
「今日は良く眠れそう~」
「主」
「んー?」
「…明日もまた、頼む」
少し照れ臭そうにしている山姥切を見て、依織はそっと手を伸ばすと彼の頭を撫でた。
「こちらこそ。ちょっと主としては頼りないだろうけど、私に選ばれちゃったってことで諦めてください♪」
撫でてみると思ったより髪が柔らかい。
山姥切は撫でられたことに驚いた後、少しだけ表情を和らがせた。
「あれ?撫でられるの好き?」
「…嫌い、じゃない」
「だね。ちょっと桜舞ってるもん」
気づくと彼の周りにはひらひらと桜の花びらが舞っていた。
「おやすみなさい、まんばくん」
「ああ…おやすみ」
ふわりと優しい桜の香りに包まれながら、依織と山姥切はすうっと眠りに入る。
本丸初日の夜は穏やかに終わった。