第22章 月と馬
・
・
・
「あの、穂波さん。
朝のストレッチ、お願いしてもいいっすか。今日最後なんで」
前から真っ直ぐにスタスタと影山くんが歩いてきて
目の前に立ち止まったかと思うとそう言われた。
『うん、もちろん。烏野のコーチたちには…?』
「もう確認とりました。澤村さんにも」
『オーケー、じゃあ、もう影山くんが良ければ始めちゃおっか。
こっちも今待機、って感じだし』
「あざっす!」
影山くんがペアストレッチをご所望だったので、
ペアストレッチをすることに。
影山くんはしっかり自分の身体の声を聞いてる。
練習前のストレッチ1つとってもちゃあんと集中してやってる。
手伝わせてもらう立場として、身の引き締まる思い。
「あの、この間のこと、上手い言い方がわかんないんで、
また音駒での合宿のときに伝えます」
『…?』
「あの…メシ食いたいってやつです。なんか上手く伝わらなかった気がするんで」
『…あぁ。うん、わかったよ。楽しみにしてるね』
「あ、ストレッチすげーいい感じっした。ありがとうございました!」
『はーい、いってらっしゃーい』
颯爽と去っていく背中を見送る。
心地いい。
心地いいまでに真っ直ぐだ。
・
・
・
…すごくすごいものを見たんだとおもう。
ちょうど音駒はタイムをとってるときで、
向こうのコートでやってる烏野と梟谷の試合を遠くから眺めていた。
翔陽くんがタッと飛んで
そこに、影山くんがバビュっとボールをセットした。
すっごく速かった。
まぁ正直よくわからないのだけど、
ずっと噛み合っていなかったものが、ハマった感じというか。
仁花ちゃんからも聞いていた背景とかいろいろがぶわぁと思い起こされて、
一層鳥肌が立った。
仁花ちゃんが飛び跳ねながらやったぁ!って言ってた。
…かわいい 本当に嬉しそう。
毎日遅くまで、影山くんの自主練のお手伝いしてたものなぁ…
そしてそれを見ていた研磨くんの表情のかわいいこと。
クロさんも気付いて何か喋ってたけど、
こっちにきた時は、してる。してない。を交互に言ってるだけで
どんな会話をしていたのかは全然わからなかった。