第22章 月と馬
8月1日(水)
合宿6日目。
4:00
久しぶりに念入りに夜ストレッチをしたから
すこぶる寝起きよし。
自分のメンテナンスかぁ。
してるつもりだけど、影山くんみたいにしっかりルーティンにできる性分じゃないから、
疎かになることも多々ある。もちょっと感覚的というか。
いやぁ、影山くんとの会話は結構じわじわと後からもツボるな。
バレーのプレーがキレキレなだけに、余計にすごい。
いつものように洗濯かごを持って出る。
今日は先に干しちゃって、ゆっくり散歩しよう。
朝食当番じゃないし。
洗濯が終わるまで本を読んだり空を見ながら洗濯室で過ごして
洗濯を干して、昨日馬術部に会えた辺りに向かって歩く。
「おはようございます」
『あ、蛍くん。おはよう。今何時くらい?携帯忘れてきちゃった』
「6時過ぎですね」
『ありがとう。蛍くんも散歩?』
「…穂波さんに会いにきました」
『ひゃあ、そんなかっこいいセリフ。わたしはね、馬に会いにきたよ』
「馬?」
『馬術部の馬がいるの。素敵だよね!』
「…へぇ」
『蛍くんは乗馬したことある?』
「小さい頃に体験みたいなのくらいです」
『そっかぁ…』
「好きなんですね、馬」
『うん、そうなの。まるで恋だよ』
「まるで恋… あ、あの、宮城に来た時に会いたいんで、連絡先を知りたいんですけど」
『お。そうだよね。それ、わたしも考えてた』
「考えてた…?」
『んーと、うん。連絡先交換しよう。じゃないと宮城で会えないもんね』
「…何を考えてたんですか?」
『ん?ううん。なんでもないよ』
「彼氏以外の男に連絡先教えるのはな、的なことですか?」
『うーん、近いけど違うような… とにかく交換しようって思ったの』
「普段、あまり連絡先教えない感じですか?」
『そうなの。わたしこんなだしさ、
ダンスとかサーフィンとかいろいろやってるし結構人に出会う機会が多くて。
交換し出したらキリがなくって。あんましないの』
「僕と交換してくれる理由はなんですか?」
『うーん…なんだろうね?わかんないや』
「期待してもいいですか?」
『何の期待?』
「僕のことを…」
「おはよう〜!」
昨日出会った馬術部の女の子が声をかけてくれる。