第22章 月と馬
「…そっすか。よくわかんないっスけど、いいんじゃないスか。
それに、穂波さんは自分の大事をちゃんとわかってるって感じします」
『自分の大事?』
「俺、9個歳の離れた姉ちゃんいるんすけど。
高校でバレー辞めて、そんときにじいちゃんに言われてました。
あ、部活で髪を切らなきゃいけなくて、
髪切りたくないから好きなバレー辞めるのってくだらないかってじいちゃんに聞いてて。
そんで、くだらないかどうかなんて誰かに決められる事じゃない、
自分の「大事」を一番わかっているのは自分だって、じいちゃんが。
穂波さんはわかってるんじゃないすか」
『…そっか。自分の大事… ちょっと考えてみる。ありがとう。素敵なおじいさんだね』
「そっすね。もう、いないんすけど」
『…そっか。でも影山くんの中にしっかりいるよね。
今話しただけでなんだよって感じだけど、今話しただけでもわかるくらい、
影山くんの中にしっかりいるのがわかるよ』
「…ぅす」
『お姉さん、今何されてるの?』
「なんか髪の毛やる仕事してます。東京で」
『なんか髪の毛やる仕事…?美容師さん?』
「いや、美容師じゃないんすけど…」
『………えっちょっと待って。 影山… …影山美羽さん? ヘアメイクの』
「あ、そーっスけど」
『えっ9歳差だよね、いま24とか25とか? あれーもしかして知ってるかも。何度か会ったことある』
「…あ、そっすか」
『えーーー!すっごいドライ。笑 これ結構、盛り上がるとこじゃないの?笑
あははっ ちょっと待って、だいぶウケるんだけど。笑 ひぃー おっかしい…笑』
「…あの、これしてる時って頭はこっち向いてればいいんすか?」
『へっ? あっ、ちょっと待って…笑 普通に進んでくんだね… 笑』
「………」
『…フゥ-…… はい、もうちょっと顎上げて、かな。 …オーケー』
「ぅす」
『………笑』
普通、どこで会ったのかとか、
なんで知ってるのかとか聞くとこだよねぇ…