第22章 月と馬
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練習を終えて、
夕飯の配膳当番も終えてお風呂から上がったところで
同じようにお風呂上がりの山口くんに遭遇した。
「あっ穂波ちゃん、お疲れさま!」
『山口くんもお疲れさま。今日も遅くまでやってたね』
「ツッキーたちは俺らが自主練終わってからもやってたみたいだけど、食堂来てた?」
『ううん、わたしたちが食堂にいた間は来なかったよ。ぎりぎり滑り込んでるかな』
「そっか、俺はもうお腹空きすぎて続けれなかったよ」
『うんうん。十分、いっぱいやってるもん。お腹空くよね。
…あ、山口くんもう寝る? せっかくだし少しここで座って話さない?なんか飲み物おごるよ』
「え、いいよ。普通に話そう」
『でもわたしがりんごジュースをとてつもなく飲みたいの。
だから何か飲みたいのあったら一緒に飲も?』
「おごられなくても自分で…でも財布持ってきてないもんな」
『気にしないでー今回ばかりはー わたしの頼み、ね?』
「あぁうん。じゃあ、俺もりんごジュースにする」
パックの100%りんごジュースを2つ。
ストローをさしてちゅーちゅーと飲みながら
他愛ない話をした。 …山口くんは素直でとてもかわいい。
話題がひと段落してからの少しの沈黙のあと、山口くんがまた喋りだした。
「俺さ、小学校のときいじめられてたんだよね」
『…うん』
「ただ怖かった。やれって言われたことを、怯えながらしてた」
『…うん』
「小4のときにさ、公園でいつものように、その、いじめられてて。
そこにたまたまツッキーが通りかかって、ひとこと「カッコ悪」って言ったんだよね」
…あぁ、容易に想像がつく。
あの飄々とした空気のまま、笑みを浮かべて一言、言ってのける様子。
それって…めちゃめちゃかっこいい。
「いじめっ子、その時3人いてさ、ツッキーは一人で一蹴した。
その、「カッコ悪」は、いじめられて泣いてる俺も含めて言ったのかもしれないんだけど。
でもそんなことより、ただかっこいいな、こんな風に俺もなりたいって思ったんだよね」
『…ううぅ』
「えっ 穂波ちゃんっ えっ」
山口くんの蛍くん愛にも、
そしてそこから見える蛍くんの山口くん愛にも泣けてしまう。
親友ってすごいなぁ…