第22章 月と馬
ー赤葦sideー
『その寂しいって、どんな寂しいかな?』
穂波ちゃんは手際良く洗濯を綺麗に干しながら会話を続ける。
「どんな、寂しいか… それはやっぱり、そばに居たい、抱きしめたいのに抱きしめれない…とか
そういう物理的な寂しさかな。 温度というか」
『温度… そうだよね。 京治くんの遠距離恋愛の経験があるの?』
「…いや、ないよ。今好きな人が初めて好きになった人。
その人から本当にいろいろな感情や世界を教えてもらってる。
でも他校の子だし、実際あまり会えない存在でもあるから、若干想像しやすいかもしれない」
『そっかぁ…』
「あ、俺のことは気にしないで、穂波ちゃんの気になることを聞いて」
『…うん、ありがとう。…何かさ、ずっとずっと理想っていうか、そういうのはね、
離れてても一緒にいても、違うことしたり一緒のことしたり…
なんていうか、どんな状態も大丈夫っていうのがいいなって思ってたのね』
「………」
『あっ、これはちょっと待って。わたしの話になっちゃう。 …えっと』
「いいよ、全然。その方が想像しやすいくらい。話しやすいように話して」
『…そっか。うん。 じゃあ、そうするね。ありがとう』
「それで、理想と今とは違うの?」
『理想なんて掲げるのがいけなかったんだと思う。今に不満はない。
でも予想以上に恋しくなっちゃうの、彼のことが。
毎日会ってても、あーもっと触りたいってなる。
それで一緒にすこしでも肌と肌を寄せてだらだらするとあっという間に満たされる』
「…そっか」
『そんなで四年も大学いけるだろか?ってなるけど…
でもそんなのでやっぱやめるってのもなんか変っていうか。
ふにゃふにゃしてるなって。そんな自分は好きじゃない』
「…彼は普段どんな感じなの?その、一緒にいるとかいないとかそういう時」
『…んーと、この長期合宿と月末の合宿の間に
旅行に行くか迷ってたときには、行っておいでって言ってくれた。
…大学行くの?ってそういう話になった時にも、何も心配してないからって』
「………」
『その言葉は信じてる。なーにも疑ってない。
でも、寂しい思いとか必要のない我慢とかして欲しくないなぁって』