第21章 スイカ
「…この春高が、木兎さんにとっての高校最後の大会になるから、
ひとつでも多く勝ち進みたい。 勝ち進まないといけない」
『うん』
「………」
『………』
「…穂波ちゃんの存在は、不思議だ」
『へ?わたし?』
「もちろん会って話せると嬉しい。 でも、会えない時間も力になる」
『…わぁ………』
「だから、たくさん力もらってるよ。ありがとう」
『うん、嬉しい。わたしも京治くんからたくさんもらってる。
こちらこそありがとう』
「…もう食べ終わったかな? そろそろ行こっか………」
京治くんとの時間はいつも本当に、心地いい。
水中の深い深いところを漂ってる感じ。
バレーの公式戦、未だ観にいけたことがないけど…どんなかな。
みんなのことを一つの会場で見れたら…
それってそれだけで夢みたいだけど…
そこで終わりじゃないんだもんな。
ひとつでも多く勝ち進みたい。
研磨くんのそばにいつもいるとわからない、
いろんなひとのバレーにかける想いを感じる。
研磨くん以外の音駒のみんなから感じていたものはあるけど、
個人の想いとなると当たり前にみんな違ってくるし…
合宿を通してたくさんの人たちのバレーを観れるのは本当に贅沢なことだなぁ、と思う。
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午前中の練習が始まる少し前、
部員はみんな体育館にいるけれど、
それぞれで何かをしてる。
各々準備も終えて、アップを開始する合図待ちの時間というか。
「あの…」
わたしに向けられたっぽい声に、振り返ると影山くん
『あっ!影山くん!』
「ぅす…」
『あの、昨日はごめんね。せっかく話を続けてくれたのに、その場を去ってしまって』
「田中さんと西谷さんに何かしでかしたんだろって言われて。俺なんかしましたか?」
『えっ ううん しでかしたのは100%わたし。
しいていうなら、影山くんのその手指の美しさが罪』
「…?」
『昨日も言ったけど、本当に綺麗な手だね。爪も』
「ぅす。 …穂波さん…で、あってるっすか?昨日聞いたんすけど」
『うん、合ってる』
「穂波さん、身体柔らかいっスよね。たまにコート脇で身体伸ばしてますよね」
『へっ?』
「なんか、コツとかあるんスか?」