第21章 スイカ
ー穂波sideー
学食を開ける時間になったのだけど、
学食には誰もいない。
『あっ わたし携帯電話、体育館に置いてきちゃった』
「うそ、今なら行けるから取っておいでよ。多分、混むのはもう少しあと。
波が来る前に取っておいで〜」
『ありがとう、雪絵さん。ちょっと走って取ってくる!すぐ戻ります!』
携帯電話を持ってないことにそんなに焦りも不安もない、
携帯を不携帯にしがちなわたしだけど、
昨日のこともあったし、今日は研磨くんと約束してるし。
早めに取りに行きたいと思った。
第一体育館が見えてきたとき、
「ヅッギィィィィィ!!!」
大きな声が聞こえた。
声のした方をみると、山口くんが勢いよく走ってる。
その先には蛍くん。
ここからは話してる内容はわからないし、
盗み聞く気もないけど、
その、山口くんの気迫に一瞬、遠くにいるわたしまで押された。
だんだん声色が強くなり、自ずと声量も上がってるようだった。
わたしの向かっている方向が、彼らのいる方向だから、
だんだん近づいて、どうしても音が耳に入ってくる。
「プライド以外に何が要るんだ!!!」
一際大きく力強いその言葉だけが聞き取れた。
山口くんは蛍くんに掴みかかっているようだった。
…いい友達がいるんだな、蛍くん。
なんだかほっこりした気持ちになる。
ほっこりしながらダッシュで第一体育館にはいり、
こそこそとステージ脇に置いたままの電話をポッケにいれて、
急いで食堂へと戻る。