第21章 スイカ
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…そして今。
体育館の壁に押し付けられるようにして
わたしは蛍くんに抱きしめられている。
「…これはあれです。ハグってやつです。
黙ってこのまま抱かれててさい。今は、何もしないんで。」
『………』
「無理して笑わなくていい。無理して感情に蓋しなくていい。
それは絶対、穂波さんに影を落とす。
あなたは、昨日みたいに、馬鹿みたいにしてればいいじゃないですか」
『…………』
「たまたま目の前にいた僕のことを気にして、か、
自分のため、か知らないけど、必要のない嘘をつくのはやめてください」
『………』
「人に見られると厄介なんで、もう離れますけど、最後にいいですか。」
『………』
「昨日の夜のこと、思い出せば思い出すほど質問が溢れてくるんです。
ほんっと、わけわかんない人だから。 …まだ僕、質問6個残ってるんで。
また今度、質問するんで今度答えてください。僕も、答えるんで」
『………』
「あと、僕、あなたの願い事2つ聞きました。
僕がさっき言った、頼み、1つ聞いてください。
いま、もし難しくても覚えておいてください。 …じゃ、僕は先に行きます」
蛍くんはそういうとスタスタと戻っていく。
『………ちょっと、待って、蛍くん!』
「はい、なんですか」
『ありがとう。 …蛍くんは、やっぱり優しいね』
待ってと言ったら、立ち止まってくれる。
蛍くんの優しさは、痛みを知る人の優しさだ。
「…その顔。
…ほんっと、馬鹿じゃないの、きみ」
蛍くんはそう吐き捨てて、去っていった。
すたすたと歩いていく背中を見ながら、
笑いが込み上げてくる。
さっきぐるぐるしたことは自分の中で解決はしてないけど、
でも今はとにかく可笑しい。
一人で声を上げて笑ってしまう。
ほんっと、馬鹿じゃないの。
なんて辛辣で愛のある言葉なんだろう。