第21章 スイカ
ー穂波sideー
大したことじゃないのかもしれない。
でもやはりわたしには大ごとだ。
──森然高校の父兄の方からの差し入れのスイカを
午後の練習の間に食べることになった。
研磨くんは翔陽くんとリエーフくんの間にちょこんと座って
小さめカットのスイカをゆっくり食べてる。
走っていって抱きつきたくなるほどの愛しさ。
研磨くんの口の中に滴る果汁を想像するとドキドキしてくる。
…馬鹿馬鹿、だめだめ。
ほっぺをぱんぱんと軽く叩いて目を覚ます。
わたしの正面あたりで影山くんが立ったまま
大きなスイカにかぶりついていることに気付く。
この、天然の色気溢れる少年。
興味なさそうなところがくすぐられる。
全体的にシュッとした顔立ちも体つきも、
髪の色も質感も、瞳の色も。
指も爪も、バレーする姿も。
何もかもが枠を飛び越え美しく、
それなのにバレー以外は何も知らない、と言うような、
幼さ、あどけなさを感じる。
…これは、あれだ、お姉さん願望だ。
お姉さんがいろいろ教えてあげる、ってしたくなるやつ。
…って、わたし何考えてるの。
ねぇ、蛍くん、ここだよね使いどき。
ほんと、馬鹿じゃないの、わたし。
研磨くんに目をやると、少し眠そうな顔をしてる。
賑やかな2人に懐かれてる研磨くん。
ここに犬岡くんが加わったり
リエーフくんがいなかったり数パターンあるけれど、
合宿中、研磨くんは賑やかで屈託のない無邪気な一年生に囲まれていることが多い。
わたしはその3人に、首がもげるほどの共感と、
有り余るほどの感謝と称賛を心の中で送ってる。
研磨くんの隣っていいよね。わたしも大好き。これは共感。
そして、迷惑そうな顔もうるさいって思ってそうな顔も、
翔陽くんに見せる綻んだ顔も… そう、そう言う意味での感謝と称賛。
ふと目の前の影山くんに目線を戻すと
綺麗な、息を飲むほどに綺麗なその指に、
うっすらと赤いスイカの果汁が伝い落ちていて…
気がつくとわたしの足は影山くんの方へと滲み寄り、
片手で影山くんの手首を掴んで
もう片方の指でつーっとその赤く濁った果汁を下から上へと拭い取っていた。