第21章 スイカ
ー月島sideー
穂波さんのそばにいるときは心のもやは晴れるけど、
やっぱり、それがずっと持つわけでもなくて。
そもそも僕の中で沸き続けて、
無視し続けてるもやなんだから当たり前なんだけど。
その上絶賛全敗中で、坂のダッシュもし続けてるしヘトヘト。
昼の練習の合間に食べた
森然高校の父兄の方からの差し入れだというスイカも一切れで十分で
とにかく少しでもあの場を離れたかった。
部活に熱くなる人たち。
あーもやもやする。
すぐ練習に戻れるように体育館に沿って歩いていると、
水道のとこで狂ったように何度も顔を洗う穂波さんがいた。
近づいても気付きやしない。
「…ちょっと、何狂ったみたいに顔洗ってるの?」
正面に回って声をかけると
びしゃびしゃの顔でこちらを見た。
「…え、なんでそんな怯えたような困惑したような顔してるわけ」
黒目は小さく揺れ、
口元は少し引きつったように強張っている。
腕を伸ばして蛇口に手をかけ、
勢いよく流れ続ける水を止める。
『…あっ 蛍くん』
声は小さく震えている。
『…あぁ、あーっと、ん? なんだっけ?』
「………」
『スっ スイカ食べた?』
「………」
『…ごめん、やっぱちょっと黙っておく』
顔も拭かずに立ちすくんでいるので、
濡れた後毛や顔から、ぽたぽたと雫が落ちている。
「とりあえず、拭きなよ」
眉をしかめて、情けなさそうに微笑みタオルを受け取る。
『…うん、もう大丈夫。またも怪しいとこ見せてごめんね。
また、得体の知れない怖い存在になっちゃったかな?w』
そう言って背を向けて歩き出す。
今に始まったことじゃない。
気がつくと追いかけていた。
そして手首を掴んで、
体育館の壁まで引っ張って連れていき、
なぜか、
なぜか僕は彼女を抱きしめていた。