第21章 スイカ
「穂波ちゃんは?何か、そういうのあるの?」
『うーん。まだ漠然としていて。
京治くんみたいにこう、はっきりとした職業ではないな。
まだ、なんだろ。こういうことしていきたいってのがあるくらい』
「うん、それはどんなこと?」
『………』
「………」
『…それは、まだちょっと、何というか… んーと…
最初に伝えたい人がいて、でもまだその人にすら伝えれてなくって。
…んー?でも全然、出し惜しみすることじゃないんだよ。
全然、すごいこと考えてるとかじゃあ、ないんだよ。ただ…』
「人に相談するのが、苦手なのかな」
『…え?』
「その、最初に伝えたい人に具体的なことを伝える前に、
まだ形になってない状態のそれを他の誰かと共有していくこともできるんじゃないかな。
伝えるのはその人が最初でも、それとは別に一緒に考える人がいるのもおかしいことじゃない。
…ちょっと、上手く言葉にできないけれど。
きっと一冊の本が出来上がってく過程にもそういうことはあるんだろうな、と思うし」
『…そっか』
「…俺でよければ聞きたいと思うし」
『えっ…』
「あぁでも、その伝えたい人に、まとまらないその今の状態を話すのもいいんじゃないかなとも思う。
そういう話でも聞いてくれる人なんだよね?」
…孤爪。
穂波ちゃんにとって、かけがえの無い存在なのだろう。
『うん。本当に意味わかんないこと喋ってても、なんでも聞いてくれる。
彼に話すとこころがすーっとする。全部全部大丈夫になる。
でも、わたしいつもそんな感じだから、なんていうか』
「大事なことだから、まとまった状態で伝えたい?」
『…うん、ちょっと、かっこつけてるのかも…柄にもなく』
「………」
『…うん、もしかしたら京治くんに聞いてもらうことがあるかもしれない』
「俺は、喜んで聞くよ。いつでもどうぞ」
『…ん。ありがとう』
そう言って穂波ちゃんは
少し情けなさそうに微笑んだ。
…今までとは違う、
その少し弱ったような表情にまたも心を奪われる
この子を守りたい。
ただ、そう思った。