第21章 スイカ
「穂波ちゃん、おはよう」
振り向くと京治くんがいた。
『あ、京治くん。おはよう。今日も早いんだね』
「…それは、穂波ちゃんも」
『…わたしは、京治くんみたいに飛んだり走ったり床滑ったりしないから。
でもこれから京治くんはまた夜まで練習でしょ?だから、早い』
「…そっか。なるほど」
『本を持ってきたんだけど、空があまりにも綺麗で読めなかった』
「…あぁ。俺も前、音駒で、最初は読んでたんだけど、そのうちに空を見ていた」
『…ね。 そうだ京治くん。 この間京治くんが教えてくれた本、すっごく面白かった。
最後の40ページくらいずっと号泣。 素敵な本を教えてくれてありがとう』
「うん、よかった。一冊、俺も穂波ちゃんに本を持ってきた。前もらったのと交換になるかな、って。
今は会えるかわかんなかったから鞄にあるけど、帰るまでによければ、渡したいと思ってる」
『わぁ… ありがとう。喜んで受け取ります。嬉しい』
…京治くんとの会話は、
いつだって静かで、それでいて話が尽きない。
気がつくと洗濯の終わる時間がとっくに過ぎてた。
…昨日のこともあったし、
時間を見て動く必要もあるし、
携帯をポッケに入れてきた。
練習中はどこかに置いておけばいい。
『…わたし、先に行くね。 あぁ!しまったぁ…』
「どうしたの?」
『ううん、なんでもない。ちょっと、やるの忘れてたこと思い出して』
「…そっか。 今から食堂?」
『ううん、洗濯物干してくる』
「じゃあ、食堂があくまで、俺はここで本を読んでくよ」
『うん!すっごくいいね!じゃあ、またね。いろいろ、ありがとう、京治くん』
京治くんとの時間は静かで澄んでいて、気持ちがいい。
良い朝だ。