• テキストサイズ

【ハイキュー】   “波長”   【孤爪研磨】

第19章 みかん







「俺やるよ。重そうだし」





熱湯の入った大鍋を抱えようとする穂波ちゃんを遮る。






『…あ、ありがとう。じゃあお願いします。 えっと、半分くらいをここにぶわぁと』






…それなら最初から半分の量で沸かせば良いのでは?
まぁ、良い。







シンクから登る湯気を穂波ちゃんはじっと見ている。

きらきらとした瞳で、
まるで降り頻る雪を眺める幼児のような顔。
なにかと遊んでいるような…








「何を、見ていたの?」






湯気が落ち着いたところで問いかける






『湯気を、見ていたの。水蒸気の粒を』

「………」

『世界ってさ、本当に美しいよね。京治くん』







そう言ってこちらに微笑みかける。

今まで見たどの笑顔よりも美しく、眩しく、儚くも力強い。

抱きしめそうになる衝動を抑え、息を飲む。







「…その、穂波ちゃんのいう世界というものを、これからも俺に教えてほしい」

『…?』

「そら豆がかわいいこと。早朝、ぼーっとすることが捗ること、空の美しさ。
立ち昇る蒸気の粒をみつめること。 …そういうこと」

『…ふふ。 喜んで。 これからもお付き合いいただけると幸いです。笑』

「…ええ。 こちらこそ」

『…よし、あと3つ』







残りのシンクのうち1つは、一緒に蒸気の粒を眺めた。
最後まで眺めれればよかったが、途中からやはり、
穂波ちゃんの表情に目が離せなくなった。







最後の2つは、湯気のなかに顔や手を突っ込んで遊んだ。

きゃっきゃっ言いながら、目を瞑ったり、
湯気で湿った手を見せ合いっこしたり…
背伸びして湿った俺の髪の毛をくしゃくしと触ってきたり、
無邪気で天真爛漫なその様子に終始心は奪われっぱなしだった。

鍋に沸かしたお湯ひとつで、
これだけ嬉々として遊べる彼女は美しい。
そしてとても魅力的だ。






…思うように触れることはできなくとも、
少しでも共に時間を過ごしたいし、
もっと、彼女のことを知りたいと思う。









/ 1804ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp