第19章 みかん
ー赤葦sideー
俺も、穂波ちゃんに想いを伝えておこうと思った。
だからどうしたいとかではなく、
ただ伝えようと。
でもできなかった。
…もう少し、この空気感を味わっていたいというか。
俺を警戒していない穂波ちゃんと
もっと時間を過ごしたい。
…木兎さんと穂波ちゃんをみると、
特に警戒というか、壁みたいなものは感じないのだが、
木兎さんも穂波ちゃんも俺からすると特異な存在すぎて、
それが俺に当てはまるとは思い難かった。
孤爪の話にも、触れようかと思ったがそれもやめた。
穂波ちゃんが話してこないんだ、
俺もわざわざ聞かなくて良いのではないかという考えは姑息だろうか。
「…あ、そうだ」
『…ん?』
「小松菜の芥子和え、美味しかった」
『あぁ!…うん!よかった。 …ふふ』
「穂波ちゃんの作るご飯はどれもとても美味しいね」
『…ほんと? ありがとう』
「…料理が好きなんだね」
『………あー、うん? …ふふ』
「…?」
『その質問、仁花ちゃん… 烏野のマネージャーの子にもされて、
ちょっと変な答え方しちゃったみたいで困らせちゃって… 笑』
「…そうなんだ、なんて答えたの?」
『…ナイショ♡』
…いたずらな笑顔でそう言って、ウインクしてくる。
胸がずきゅっとする。
『あー、楽しかったし、勉強になった。いい2日だったなぁ』
穂波ちゃんは伸びをしながら、
次のシンクへと歩き出す。
…ダメだ、少しでも油断したら後ろからでも抱きしめてしまいそうだ。
穂波ちゃんはコンロに置いてある鍋を強火にかける。
すでに一度お湯になっているようで、
それを再沸騰させようとしてるようだった。