第19章 みかん
シンクに熱湯をかけて
周りに飛んだ水滴や蛇口を拭いていると、
京治くんがやってきた。
『京治くん。お疲れさま。ひと段落ついた?』
「…梟谷の部屋も片付いたし、荷物も一つにまとめたし、うん、まぁそうだね」
『…ふふ ねぇ、京治くん』
「…ん、なに?」
『梟谷のバレーすごいね』
「あぁ… ありがとう。 …今回は木兎さん、不調が起きなかったから」
『…ん?』
「いや、なんでもない」
『みーんなすごかった。みーんなかっこよかった。梟谷は、そうだなぁ… つい、みちゃうね』
「………」
『うまく言い表せないけど、すごかった。京治くん、かっこいいね』
「………」
『………♪』
次のシンクにうつって、鍋に沸かしたお湯をかける
ぼわぁぁぁ〜っと湯気が立ち昇る
湯気をじっとみると、小さな水の粒がみえてくる。
当たり前でなんてことないこういうことが
とてつもなくわたしの心をくすぐるのだ
じーっと湯気をみつめてると、
白いもやの向こうから手が伸びてきてわたしの頬に触れる
『………』
京治くんの顔が、近い。
鼻が、触れてしまいそうだ。
「穂波ちゃん、俺、話したいことがあるんだけど少し、いいかな」
『…あ、うん』
…京治くんの瞳は、ほんとに深い色をしてるなぁ。
見れば見るほどいつも通りでありながら
見れば見るほどいつもと違う。
いろんな色にみえてくる。
「…俺、 ………」
京治くんは目を瞑り、小さく首を振った
「…やっぱりまた、今度にする」
そう言って顔が離れていく
『うん。いつでもどうぞ。 …ふふ』
「…?」
『京治くん、湯気の中に顔を突っ込んだから何だか蒸されたみたいに水滴がついてる …ふふ。
はい、これは調理用じゃなから』
ズボンのポッケからハンカチをとり出して渡す
京治くんは顔を拭きながら、少し笑った。